スカラスティック社

スカラスティック社 (Scholastic Corporation) は、ハリー・ポッターシリーズのアメリカ合衆国における公式出版社です。同社は、J.K.ローリングの作品をアメリカの読者に紹介し、シリーズの世界的な成功に不可欠な役割を果たしました。特に、アメリカ版独自の表紙アートや、第一作のタイトルおよび本文の一部変更を行ったことで知られています。

  • 出版権の獲得: 1997年、スカラスティック社は当時まだ無名だったJ.K.ローリングの第一作『ハリー・ポッターと賢者の石』のアメリカでの出版権を、児童書としては異例の10万5000ドルで獲得しました。この決断は、同社の編集者アーサー・A・レビン (Arthur A. Levine) の強い推薦によるものでした。
  • アメリカ版の発行: 1998年9月、スカラスティック社は第一作を『Harry Potter and the Sorcerer's Stone』と改題して出版しました。以降、最終巻『ハリー・ポッターと死の秘宝』まで全7巻のアメリカ版の発行を手がけました。

スカラスティック社によるアメリカ版は、イギリスのブルームズベリー社 (Bloomsbury) が発行したオリジナル版とはいくつかの重要な違いがあります。

  • タイトルの変更: 最も有名な変更点として、第一作のタイトルがイギリス版の『Harry Potter and the Philosopher's Stone』から『Harry Potter and the Sorcerer's Stone』に変更されました。これは、「Philosopher(賢者)」という単語が子供の読者にとって魅力的ではないと判断されたためです。この変更はJ.K.ローリングの許諾を得て行われました。
  • 本文の「翻訳」: アメリカの読者がより物語に没入しやすいよう、一部の単語や表現がイギリス英語からアメリカ英語に置き換えられました。
    • 例:「jumper」→「sweater」、「mum」→「mom」、「biscuit」→「cookie」、「football」→「soccer」など。
  • 表紙と挿絵: 全7巻のアメリカ版の表紙と各章の冒頭の挿絵は、イラストレーターのメアリー・グランプレ (Mary GrandPré) が担当しました。彼女の描くハリー・ポッターハーマイオニー・グレンジャーロン・ウィーズリーたちの姿は、アメリカのファンにとって象徴的なイメージとなりました。

スカラスティック社は、深夜発売イベントや全米を横断する「ホグワーツ・エクスプレス」を模したバスツアーなど、大規模かつ革新的なマーケティングキャンペーンを展開しました。これらの戦略は、ハリー・ポッターシリーズを単なるベストセラー書籍から一つの社会現象へと押し上げる上で、極めて重要な役割を果たしました。