原著小説において、命の霊薬 (Elixir of Life) の具体的な色、粘度、味といった物理的な外観に関する詳細な記述は存在しない。その存在は、それが生成される源である 賢者の石 と密接に関連して語られる。これは液体状の物質であり、定期的に摂取する必要がある。
命の霊薬の最も重要かつ唯一知られている魔法特性は、飲んだ者に非常に長い寿命、実質的な 不死 を与えることである。
命の霊薬は、14世紀に ニコラス・フラメル が 賢者の石 を完成させたことにより、歴史上初めて生成された。フラメルと妻の ペレネル・フラメル は、この霊薬を600年以上にわたって使用し続け、驚異的な長寿を保った。『ハリー・ポッターと賢者の石』の時点で、ニコラスは665歳であった。 1991年から1992年にかけての ホグワーツ の学年度において、力を失い寄生体として生き長らえていた ヴォルデモート卿 は、クィリナス・クィレル の身体を乗っ取り、賢者の石 を盗み出して命の霊薬を生成しようと企てた。彼の目的は、完全な肉体を取り戻し、そして永遠の命を確保することであった。 この企みは ハリー・ポッター によって阻止された。事件後、アルバス・ダンブルドア と ニコラス・フラメル は相談の上、賢者の石 が再び悪用される危険性を鑑み、それを破壊することを決定した。これにより、命の霊薬の新たな生成は不可能となった。ダンブルドアによれば、フラメル夫妻は手持ちの霊薬で身辺整理を行うのに十分な時間を確保した後、穏やかに死を迎えることになったという。
命の霊薬は、シリーズ第一作『ハリー・ポッターと賢者の石』における中心的なプロットデバイス(マクガフィン)である。物語の謎と対立は、すべて 賢者の石 とそこから作られる命の霊薬を巡って展開される。 この霊薬は、ヴォルデモート卿 の「死への恐怖」と「不死への渇望」というシリーズ全体の根幹をなすテーマを読者に初めて提示するものである。彼の霊薬への執着は、後に明らかになるもう一つの不死の手段である 分霊箱 (Horcrux) の探求へと繋がっていく。 また、アルバス・ダンブルドア が「きちんと整理された心を持つ者にとって、死は次の大いなる冒険にすぎない」と語るように、命の霊薬とフラメル夫妻の運命は、死を自然なものとして受け入れることの重要性という物語の哲学的な側面を強調している。
「命の霊薬(エリクサー)」および「賢者の石」という概念は、J.K. ローリングの創作ではなく、現実世界の歴史における錬金術の伝説に深く根差している。古来より、多くの錬金術師たちが不死と富をもたらすとされるこれらの物質の創造を追い求めてきた。