分霊箱 (Horcrux)

分霊箱(ホークラックス)とは、魔法使いや魔女が自らの魂の一部を切り離し、それを特定の生物の中に隠すことで不死性を得るために使用する、黒魔術の中でも特に邪悪とされる道具の総称です。魂が分霊箱に繋がっている限り、たとえ本体の肉体が破壊されても、その者は死ぬことなく、幽霊よりも希薄な状態で存在し続けることができます。 分霊箱の作成には、魂を裂くという自然に反した行為が伴います。この行為は、殺人という「究極の悪の行為」によって達成されます。魂を裂いた後、特定の呪文を用いてその魂の断片をあらかじめ選んだ器に封じ込めます。器となる物に特定の外見的要件はなく、日常的な物から歴史的に価値のあるアーティファクト、さらには生物までが分霊箱になり得ます。 ヴォルデモート卿が作成した分霊箱の外観は、それぞれが彼にとって象徴的な意味を持つ物でした。

  • 不死性 (Immortality): 分霊箱の最も重要な機能は、製作者に不死を与えることです。魂の一部が地上に安全に繋ぎ止められている限り、肉体が完全に破壊されても死ぬことはありません。
  • 作成方法 (Creation Process):
    1. 1. 魂を裂く:殺人を犯すことで自らの魂を引き裂きます。
    2. 2. 呪文を唱える:魂の断片を分離するための、詳細は明かされていない恐ろしい呪文を唱えます。
    3. 3. 魂を封じ込める:分離した魂の断片を、選ばれた器に魔法で封じ込めます。
  • 防御と脆弱性 (Defense and Vulnerability): 分霊箱は非常に強力な黒魔術によって守られており、通常の魔法や物理的手段では破壊できません。破壊するには、修復不可能なほど完全に破壊し尽くす必要があります。作中で確認されている破壊方法は以下の通りです。
  • 自己防衛と影響力 (Self-Defense and Influence): 分霊箱は単なる器ではなく、内包された魂の断片により、ある程度の知覚や自己防衛能力を持ちます。トム・リドルの日記ジニー・ウィーズリーを操ったように、近くにいる者の心に影響を与え、堕落させることが可能です。サラザール・スリザリンのロケットも、所有者の精神に深刻な悪影響を及ぼしました。

分霊箱を最初に作成したと記録されているのは、古代ギリシャの闇の魔法使い卑劣なるヘルポです。彼はこの主題に関する研究の創始者とされています。 数世紀後、ホグワーツ魔法魔術学校の生徒であったトム・マールヴォロ・リドル(後のヴォルデモート卿)は、禁書の棚で分霊箱に関する記述を発見し、その概念に深く魅了されました。彼はホラス・スラグホーン教授から、魂を複数に分割することの可能性について聞き出しました。魔法的に強力とされる「7」という数字にこだわり、彼は自らの魂を7つに分けるという前代未聞の計画を立てました。 彼はホグワーツ在学中から卒業後にかけて殺人を繰り返し、6つの分霊箱を意図的に作成しました。しかし、1981年10月31日にポッター家を襲撃した際、リリー・ポッター愛の護りによって死の呪いが跳ね返り、彼の肉体は破壊されました。この時、すでに不安定だった彼の魂はさらに引き裂かれ、その場にいた唯一の生き物である赤ん坊のハリー・ポッターに意図せずして魂の断片が宿り、7つ目の分霊箱が生まれました。

分霊箱は、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』以降の物語の核となる要素です。アルバス・ダンブルドア憂いの篩を通じてハリー・ポッターヴォルデモートの過去を見せたことで、分霊箱の存在が明らかになり、それらをすべて破壊することがヴォルデモート卿を倒す唯一の方法であると判明します。 『ハリー・ポッターと死の秘宝』では、ハリー・ポッターロン・ウィーズリーハーマイオニー・グレンジャーの3人が、残された分霊箱を探し出し、破壊するための旅に出ます。この探索は、第二次魔法戦争の勝利に向けた中心的な任務となりました。

  1. ハリー・ポッター: 『ハリー・ポッターと死の秘宝』にて、禁じられた森ヴォルデモート卿自身が放った死の呪いによって、ハリーの中の魂の断片のみが破壊された。
  • 名前の語源 (Etymology): 著者のJ.K.ローリングは、“Horcrux”という言葉の語源を明確には説明していませんが、ラテン語の crux(十字架、あるいは苦悩の根源)と、英語の horror(恐怖)を組み合わせた造語である可能性が示唆されています。(J.K.ローリングのインタビュー)
  • 作成の呪文 (Creation Spell): J.K.ローリングは、分霊箱を作成するための呪文は非常に恐ろしく、読者に公開するつもりはないと述べています。(J.K.ローリングのインタビュー)