トム・リドルの日記
基本情報
- 製作者 (Maker): トム・マールヴォロ・リドル
記述と外観
トム・リドルの日記は、ロンドンのヴォクソール・ロードにあるマグル向けの文房具店で購入された、何の変哲もない黒い革表紙の薄い手帳である。表紙には何も書かれておらず、中身も一見すると完全に白紙である。しかし、この日記にインクで何かを書き込むと、インクはページに吸い込まれて消え、日記からの返事がひとりでに現れるという魔法の特性を持つ。
魔法の特性と用途
この日記の最も重要かつ邪悪な本質は、それがヴォルデモート卿の最初の魂器であるという点にある。16歳のトム・マールヴォロ・リドルが嘆きのマートルを殺害した際に、自らの魂の一部を裂いてこの日記に封じ込めた。
- 魂の器 (Horcrux): 日記はリドルの魂の断片を内包しており、それ自体が半ば生命を持ち、独立した思考能力を持つ。この魂の断片は、日記の所有者と精神的な繋がりを築くことで力を増していく。
- 双方向コミュニケーション: 所有者が日記に書き込むと、中にいる16歳のリドルの記憶(魂の断片)が返事を書き返す。これにより、所有者はリドルと対話しているかのような感覚に陥り、徐々に信頼を寄せるようになる。
- 精神支配と憑依: 日記は、書き手の最も深い恐怖や秘密を引き出し、感情を糧として力を蓄える。所有者が日記に強く依存するようになると、リドルの魂の断片がその人物の意識を乗っ取り、体を操ることが可能になる。ジニー・ウィーズリーはこの能力の犠牲者となった。
- 記憶への没入: 日記は、所有者をリドルが意図的に保存した過去の記憶の中に引き込む能力を持つ。ハリー・ポッターは、リドルがルビウス・ハグリッドを「スリザリンの継承者」として告発する場面の記憶を見せられた。
歴史
- 1943年、ホグワーツ魔法魔術学校の6年生であったトム・マールヴォロ・リドルは、秘密の部屋を開き、バジリスクを解き放ってマグル生まれの生徒、マートル・エリザベス・ワレン(後の嘆きのマートル)を殺害した。この死を利用して、彼は自身初となる魂器としてこの日記を制作した。
- 後にヴォルデモート卿となったリドルは、自身の最初の失脚前に、この日記を忠実な部下であるルシウス・マルフォイに預けた。彼は、いずれ日記をホグワーツに密かに持ち込み、秘密の部屋を再び開かせるよう指示していた。
- 1992年、ダイアゴン横丁の「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店」で、ルシウス・マルフォイはジニー・ウィーズリーの古い変身術の教科書にこの日記を滑り込ませた。これは、ライバルであるアーサー・ウィーズリーへの嫌がらせと、魔法省の家宅捜索から闇のアイテムを処分する目的を兼ねていた。
- ジニー・ウィーズリーは日記に自身の悩みを書き込み始め、徐々にリドルの魂に支配されていった。彼女は操られるままに秘密の部屋を開き、鶏を絞め殺し、壁に血のメッセージを残した。
- 最終的にジニーはリドルの魂に完全に体を乗っ取られ、秘密の部屋へと連れ去られた。
物語における役割
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』において、トム・リドルの日記は物語の中心的な謎であり、実質的な敵として機能する。これは、ハリーが初めて遭遇し、破壊した魂器であるが、その時点では彼もアルバス・ダンブルドアもその正体を完全には理解していなかった。この出来事は、後に魂器を破壊する方法(バジリスクの毒のような強力な物質)の重要な前例となった。また、この日記を通じて、ハリーと読者はヴォルデモート卿の少年時代の姿と、彼の狡猾で残忍な本性の一端を初めて垣間見ることになる。
舞台裏情報
- 映画版では、インクがページに吸い込まれ、文字が浮かび上がる様子が視覚的に効果的に描かれている。ハリーが記憶に引き込まれるシーンも、白黒の幻想的な映像で表現された。
- J.K. ローリングは、日記というありふれた物が、いかに危険な秘密を隠し持ちうるかというアイデアからこの魂器を考案したと述べている。(Pottermore)