闇の帳は、イギリス魔法省の神秘部内にある「死の部屋」と呼ばれる円形の部屋の中央に存在する、古代の魔法的アーティファクトです。石造りの演台の上に、ひびの入った古い石のアーチが立っており、そのアーチからボロボロになった黒いベール、すなわち「帳」が吊り下がっています。部屋の中は空気が静止しているにもかかわらず、帳はまるでそよ風に吹かれているかのように絶えず静かにはためいています。 この帳は、死と密接に関連しており、その存在は多くの謎に包まれています。
闇の帳の最も顕著な特性は、生者の世界と死者の世界を隔てる境界、あるいは一方通行のポータルとして機能することです。一度この帳を通り抜けた者は、二度と生者の世界に戻ることはできません。
闇の帳の正確な起源は不明ですが、非常に古くから存在していると考えられています。その神秘的な性質から、魔法省の設立当初から神秘部の最も重要な研究対象の一つとして厳重に保管されてきました。それは魔法界における「死」という根源的な謎を物理的に体現した存在です。
闇の帳は、小説『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』のクライマックスで極めて重要な役割を果たします。 神秘部の戦いの最中、ハリー・ポッターの名付け親であるシリウス・ブラックは、いとこのベラトリックス・レストレンジが放った呪文(原文では呪文名は明記されていないが、赤い光線とされる)を受けてバランスを崩し、この闇の帳の後ろへと倒れ込みました。彼は帳を通り抜けた瞬間に姿を消し、帰らぬ人となりました。 この出来事はハリーに計り知れない悲しみと衝撃を与え、彼が初めて身近な保護者を失うという過酷な経験となりました。また、魔法でも死者を生き返らせることはできないという、物語全体を貫く厳然たる事実を読者に突きつけました。リーマス・ルーピンがハリーを制止し、「あちら側へ行ったら、もう戻ってはこられない」と告げた言葉は、この帳の不可逆的な性質を明確に示しています。