パイアス・シックネス

パイアス・シックネス (Pius Thicknesse) は、第二次ウィザーディング戦争中にヴォルデモート卿の支配下に置かれた魔法省の役人である。元々は魔法法執行部の部長であったが、死喰い人ヤックスリーによって奪魂咒にかけられ、ルーファス・スクリムジョールの死後、傀儡の魔法大臣に据えられた。彼の存在は、魔法省が内部から完全に死喰い人に乗っ取られたことを象徴している。物語を通して、彼は自身の意志を持たない人形として行動し、ヴォルデモートの恐怖政治を公式に正当化する役割を担った。

シックネスの物語における役割は、第二次ウィザーディング戦争の最終局面に集中している。

  • 魔法省の陥落

1997年の夏、ヴォルデモート魔法省を掌握する計画の一環として、省のトップレベルに影響力を持つ人物を支配下に置くことを画策した。魔法法執行部部長という要職にあったシックネスは、死喰い人ヤックスリーの標的となった。ヤックスリーはシックネスにまんまと奪魂咒をかけることに成功し、この成果をマルフォイの館で行われた死喰い人の会合でヴォルデモートに報告した。これにより、死喰い人魔法省の他の部署長たちを脅迫し、支配下に置くための足掛かりを得た。

  • 傀儡大臣として

1997年8月1日、魔法省が陥落しルーファス・スクリムジョール大臣が殺害されると、シックネスはヴォルデモートによって後任の魔法大臣に任命された。彼の権威は名目上のものであり、実際にはヴォルデモート死喰い人の政策を実行するための公的な顔に過ぎなかった。大臣として、彼は以下のような法令を次々と布告した。

1998年5月2日、シックネスはヴォルデモート軍の一員としてホグワーツの戦いに参戦した。彼は城の防壁を破ろうとする死喰い人や巨人たちと共に最前線で戦った。戦闘中、彼はパーシー・ウィーズリーと対峙し、パーシーが放った呪文によってウニのようなトゲだらけの姿に変身させられ、無力化された。その後、アーサー・ウィーズリーにも気絶させられている。

  • 戦後

ヴォルデモートの死後、彼にかけられていた奪魂咒は解けたと考えられる。彼が自らの意志で死喰い人に与したわけではないため、アズカバンへ送られることはなかったと推測される。大臣の座は臨時にキングズリー・シャックルボルトが引き継ぎ、シックネスは歴史の表舞台から姿を消した。

  • 外貌

シックネスは、灰色交じりの長い黒髪とあごひげを持ち、大きく張り出した額とキラリと光る目が特徴的だと描写されている。奪魂咒にかけられている間、彼の表情は常にうつろで、まるで他人が書いたセリフを読んでいるかのような話し方をした。

  • 性格

作中では常に奪魂咒の下にあるため、彼の本来の性格はほとんど不明である。しかし、魔法法執行部の部長という高い地位に就いていたことから、呪いをかけられる前は有能で強力な魔法使いであったことは間違いない。

魔法法執行部部長を務めていたことから、シックネスは決闘や魔法法に関する知識を含め、非常に高い魔法能力を持っていたはずである。ホグワーツの戦いでは、奪魂咒下でありながらも戦闘に参加しており、その基礎的な魔力の高さがうかがえる。しかし、作中で彼が独自の判断で特定の高度な魔法を使用した場面はない。

シックネスはヴォルデモート死喰い人にとって、魔法省を合法的に支配するための便利な道具でしかなかった。特にヤックスリーは彼の直接の支配者であった。彼らの間に真の関係はなく、一方的な支配と服従の関係にあった。

ヴォルデモートの傀儡として、彼は不死鳥の騎士団の敵対者であった。ホグワーツの戦いでは、アーサー・ウィーズリーパーシー・ウィーズリーといった騎士団のメンバーと直接戦った。

  • Pius (パイアス)

ラテン語で「敬虔な」「信心深い」「義務を重んじる」といった意味を持つ。魔法界の法と秩序を破壊する闇の帝王に仕えるという、彼の役割とは全く逆の意味を持つ皮肉な名前である。

  • Thicknesse (シックネス)

英語の “thickness” (厚さ、鈍さ) に由来する。これは彼の濃い髪やひげを指している可能性もあるが、より比喩的に、奪魂咒によって彼の思考や意志が「鈍く」なっている状態を示唆しているのかもしれない。

  • 映画での描写

映画版『ハリー・ポッターと死の秘宝』では、俳優のガイ・ヘンリーがシックネスを演じた。映画では原作よりも早い段階で、マルフォイの館での会合にヴォルデモートの隣に座る姿で登場する。(映画設定)

  また、彼の最期は原作と大きく異なり、[[ホグワーツの戦い]]の最中、[[分霊箱]]である[[レイブンクローの髪飾り]]が破壊されたことを知って激怒した[[ヴォルデモート]]によって、他の[[死喰い人]]と共に殺害されている。(映画設定)