国際魔法機密保持法

国際魔法機密保持法 (International Statute of Secrecy) は、1692年に国際魔法使い連盟によって制定された、魔法界で最も重要かつ広範囲にわたる法律である。その根本的な目的は、魔法界の存在そのものを非魔法族のコミュニティ(マグル)から完全に隠蔽し、魔法族の安全を確保することにある。この法律の制定により、魔法社会はマグル社会から意図的に隔絶され、独自の隠れたコミュニティ(例:ホグズミードダイアゴン横丁)を形成するようになった。この法律の遵守は、各国の魔法省が責任を負う最優先事項とされている。

17世紀以前、魔法族とマグルの関係は極めて緊張状態にあった。魔法族に対するマグルの不信感と恐怖は、世界各地で魔女狩りや迫害という形で現れた。特に1692年の「セイラム魔女裁判」は、魔法界に大きな衝撃を与えた出来事の一つである(Pottermore)。 このような状況を受け、魔法界の指導者たちは、これ以上の対立は双方にとって破滅的であると判断した。議論の末、国際魔法使い連盟は1689年に法案を提出し、数年間の討議を経て1692年に国際魔法機密保持法として正式に署名・制定した。その目的は、公然とマグルと関わることをやめ、魔法界全体が「隠れる」ことで、魔法族の生存と文化を守ることにあった。この法律は、魔法界の歴史における重大な転換点となった。

この法律は多岐にわたるが、その核心となる規定は以下の通りである。

  • マグル前での魔法使用の禁止:生命の危機が迫っている場合や、正当防衛といった例外を除き、マグルのいる場所や目撃される可能性のある場所で意図的に魔法を使用することは固く禁じられている。
  • 魔法生物の隠蔽:全ての魔法生物は、マグルの目に触れないよう、厳重に管理・飼育されなければならない。この任務は主に各国の魔法省にある魔法生物規制管理部が担当する。
  • 魔法道具の管理:魔法のかかった物品がマグルの手に渡らないように管理することが義務付けられている。アーサー・ウィーズリーが勤めていたマグル製品不正使用取締局は、この規定を執行する部署の一例である。
  • 服装規定マグルの居住区に入る際、魔法使いは周囲に溶け込むためにマグルの服装を着用することが求められる。クィディッチ・ワールドカップの際に、多くの魔法使いが奇抜な服装をしていたことが問題視された。

この法律の執行は、各国の魔法省が担っている。イギリス魔法省では、不正呪文取締局が違反を監視し、マグルが魔法を目撃した場合には忘却術士 (Obliviator) の部隊が派遣され、記憶を修正する。また、イギリス国内法である未成年魔法使いの妥当な制限と、それを監視するトレース (The Trace) も、この機密保持法を未成年者に遵守させるための重要な仕組みである。

国際魔法機密保持法は、『ハリー・ポッター』シリーズの物語全体を通じて、魔法界の社会構造を定義し、多くの重要なプロットの引き金となる。

ヴォルデモート卿が権力を掌握した後、魔法界が内戦状態に陥ると、マグルに対する秘密の保持よりも、純血主義者との戦いそのものが優先されるようになり、法律の重要性は一時的に低下した。

  • J.K. ローリングは、この法律が制定された年(1692年)を、現実世界の歴史で悪名高い「セイラム魔女裁判」の年と意図的に一致させていることを明かしている(Pottermore)。
  • 映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズは、この機密保持法が魔法社会に与える影響を主要なテーマの一つとしている。特に1920年代のアメリカ魔法社会では、MACUSA (マクーザ) によってイギリスよりもさらに厳格な分離政策がとられており、魔法族とノー・マジ(アメリカでのマグルの呼称)との交流は一切が禁じられていた。(『ファンタスティック・ビースト』シリーズ設定)