グレイ・レディ

グレイ・レディ (The Grey Lady) は、ホグワーツ魔法魔術学校に棲むレイブンクロー寮の幽霊である。彼女の生前の名前はヘレナ・レイブンクロー (Helena Ravenclaw) であり、ホグワーツ創設者の一人、ロウェナ・レイブンクローの一人娘である。物語の終盤において、ヴォルデモート卿分霊箱の一つであるレイブンクローの髪飾りの隠し場所をハリー・ポッターに明かすという、極めて重要な役割を果たした。

ヘレナは、偉大な魔女であった母ロウェナ・レイブンクローに対し、強い羨望と対抗心を抱いて育った。母の知恵と名声を超えたいという野心から、所有者に叡智を授けるとされる母のレイブンクローの髪飾りを盗み出し、アルバニアの森へと逃亡した。 この裏切りに母ロウェナは深く心を痛め、娘が髪飾りを盗んだという事実を誰にも明かさず、重い病の床に就いた。死期を悟った彼女は、娘に一目会いたいと願い、かねてよりヘレナに恋心を抱いていた血まみれ男爵に、彼女を連れ戻すよう依頼した。

アルバニアでヘレナを発見した血まみれ男爵は、共に帰るよう説得したが、彼女はこれを頑なに拒否した。逆上した男爵はヘレナを刺殺し、直後に自らの行いを悔いて自害した。その後、二人は幽霊となってホグワーツ城に戻り、ヘレナは「グレイ・レディ」として、男爵はスリザリン寮の幽霊「血まみれ男爵」として城を彷徨うことになった。 幽霊となった彼女は、生前の裏切りと悲劇的な死への後悔から、特に他寮の生徒に対しては心を閉ざし、髪飾りの行方については何世紀にもわたって沈黙を貫いた。しかし、学生時代のトム・マールヴォロ・リドルが巧みな言葉で彼女に近づき、髪飾りの隠し場所を聞き出すことに成功する。リドルは髪飾りを手に入れると、それを分霊箱へと変えてしまった。

第二次魔法戦争の最終局面で、ハリー・ポッター分霊箱となったレイブンクローの髪飾りを探し、グレイ・レディに助けを求めた。当初、彼女はかつてリドルに騙された経験から協力を拒んだが、ハリーが髪飾りを「破壊する」という純粋な目的を語り、彼女の苦悩に共感を示したことで、ついに心を開く。 彼女は、髪飾りがホグワーツ城内の「あらゆるものが隠されている部屋」、すなわち必要の部屋に隠されていることをハリーに明かした。この情報が、ヴォルデモート卿を滅ぼすための決定的な一歩となった。

  • 外貌: 長い髪を持つ、背の高い美しい幽霊。真珠のような白色で半透明な姿をしている。物憂げで、どこか高慢な印象を与える。
  • 性格: 内向的で物静か。生前の裏切り行為への深い後悔と、トム・マールヴォロ・リドルに騙された経験から、他人、特に生徒を信用しない傾向が強い。知的で気高い一面を持つが、その心は悲しみと孤独に満ちている。

生前の魔法使いとしての能力は具体的に描写されていないが、レイブンクローの創設者の娘であることから、相応の才能を持っていたと考えられる。幽霊としては、壁や物体を通り抜ける、浮遊するといった標準的な能力を持つ。

  • レイブンクローの髪飾り: 母から盗み出した魔法の髪飾り。彼女の人生と死、そして物語の核心に深く関わる唯一無二の重要アイテムである。
  • ヘレナ (Helena): ギリシャ語由来の名前。その美しさからトロイア戦争の原因となったとされる「トロイのヘレネ」を彷彿とさせる。ヘレナの行動が、髪飾りの喪失と自身の死という悲劇を招いたことと重なる。
  • グレイ・レディ (Grey Lady): 「灰色」は、中立、悲しみ、曖昧さなどを象徴する色であり、彼女の物憂げで謎めいた幽霊としての存在感を的確に表している。
  • 映画版では、『ハリー・ポッターと賢者の石』および『秘密の部屋』でニナ・ヤングが演じたが、台詞はなかった。(映画の設定)
  • 物語の鍵を握る『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』では、ケリー・マクドナルドが演じ、原作における彼女の役割がより詳細に描かれている。(映画の設定)