ナルシッサ・マルフォイ

ナルシッサ・マルフォイ (旧姓ブラック) は、純血の魔法族であり、高貴で最も古いブラック家の出身です。彼女はルシウス・マルフォイの妻であり、ドラコ・マルフォイの母親です。姉にはベラトリックス・レストレンジアンドロメダ・トンクスがいます。ナルシッサ自身は腕に闇の印を刻まれた正式な死喰い人ではありませんが、夫や姉を通じてヴォルデモート卿の陣営と密接に関わっていました。物語における彼女の最も重要な役割は、息子ドラコへの深い愛情に突き動かされ、最終的にヴォルデモート卿を裏切る決断を下したことです。この行動が、ハリー・ポッターの最終的な勝利に決定的な貢献をしました。

夫のルシウス・マルフォイ魔法省神秘部の戦いで任務に失敗しアズカバンに収監されると、マルフォイ家の立場は著しく悪化します。ヴォルデモート卿は、その見せしめとして息子ドラコにアルバス・ダンブルドア殺害という、ほぼ不可能な任務を課しました。 ナルシッサはこれを事実上の死刑宣告とみなし、息子の命を救うため、姉ベラトリックスの制止を振り切ってスピナーズ・エンドに住むセブルス・スネイプを訪ねました。彼女はスネイプに、ドラコを守り、もし彼が失敗した場合は任務を代行することを「破れぬ誓い」で誓わせることに成功します。 その後、マルフォイの館は死喰い人の本部として使われ、一家はヴォルデモート卿の支配下で屈辱的な日々を送りました。ハリー・ポッターロン・ウィーズリーハーマイオニー・グレンジャーが捕らえられ館に連れてこられた際も、彼女はドラコの身を案じるあまり、ハリーの特定に消極的な態度を見せました。 ホグワーツの戦いのクライマックスで、ヴォルデモート卿が禁じられた森でハリーに死の呪いをかけた後、ナルシッサはハリーの生死を確認するよう命じられます。彼女はハリーに歩み寄り、息子ドラコが城でまだ生きているかを小声で尋ねました。ハリーが頷くと、彼女はヴォルデモート卿に「ハリーは死んだ」と嘘をつきました。この嘘によって、ハリーは生きたままホグワーツ城へ運ばれ、ヴォルデモート卿の最後の敗北への道を切り開くことができたのです。

第二次魔法使い戦争後、ナルシッサがヴォルデモート卿に嘘をついて結果的にハリーを助けたことが考慮され、マルフォイ家(彼女、ルシウス、ドラコ)はアズカバンへの収監を免れました。

背が高くスリムで、青白い顔と長いブロンドの髪を持つ美しい女性として描かれています。その表情は、まるで不快な臭いを嗅いでいるかのように、常に傲慢さと不満が入り混じったものに見えるとされます。彼女のブロンドの髪は、ブラック家の伝統的な黒髪とは対照的です。

純血の優越思想を持つ典型的なスリザリン出身の魔女であり、傲慢で冷淡な一面を持ちます。マダム・マルキンの店では、ハーマイオニー・グレンジャーロン・ウィーズリーを見下す態度を見せました。 しかし、彼女の性格の根幹をなすのは、息子ドラコに対する盲目的で絶対的な愛情です。この母性愛は、ヴォルデモート卿への恐怖や忠誠心よりも強く、最終的に彼女を歴史を動かす行動へと駆り立てました。彼女は姉のベラトリックスのようなサディスティックな残虐性は持たず、その行動原理は常に家族、特に息子の安全が最優先です。

彼女の魔法能力について詳細な描写は少ないですが、高貴な純血の家系にふさわしい有能な魔女であることが示唆されています。

  • 閉心術 (Occlumency): 史上最も優れた開心術 (Legilimency) の使い手の一人であるヴォルデモート卿に対し、ハリーの死について嘘をつき通しました。これは、彼女が極めて高度な閉心術を心得ていたか、あるいは息子を思う強い感情が精神的な盾として機能したことを示唆しています。
  • 決闘: 多くの戦闘シーンには参加していませんが、ホグワーツの戦いを生き延びています。
  • 姿現わし (Apparition): 姉のベラトリックスと共にスピナーズ・エンド姿現わしで移動するなど、熟練しています。
  • : 原作小説では、彼女の杖の材質、芯、長さに関する記述は一切ありません。
  • : 彼女が所有する杖。ただし、その詳細については原作では語られていません。
  • ドラコ・マルフォイ (息子): 彼女の世界の中心であり、すべての行動の動機です。ドラコを守るためなら、ヴォルデモート卿を裏切ることさえ厭いません。
  • ルシウス・マルフォイ (夫): 夫婦として一家の地位と純血の誇りを共有しています。しかし、息子の危機に際しては、夫の意向よりも自身の判断を優先することがあります。
  • ベラトリックス・レストレンジ (姉): 闇の陣営の同盟者ですが、その関係は複雑です。ベラトリックスがヴォルデモート卿に狂信的な忠誠を誓うのに対し、ナルシッサの忠誠は家族にのみ向けられているため、二人の間にはしばしば緊張が走りました。
  • アンドロメダ・トンクス (姉): マグル生まれのテッド・トンクスと結婚したことで勘当しており、姉妹関係は断絶しています。
  • セブルス・スネイプ (知人): 息子を守るため、ヴォルデモート卿の不興を買う危険を冒してまで助けを求めた相手。彼女はスネイプを信頼できる存在とみなしていました。
  • ヴォルデモート卿 (主人): 恐怖の対象であり、一家の保身のために仕えていました。しかし、最終的には息子への愛が恐怖を上回り、彼を裏切るに至りました。
  • ナルシッサ (Narcissa): ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソス (Narcissus) に由来します。ナルキッソスは水面に映る自分自身の姿に恋をし、衰弱して死にました。これは、自己愛、傲慢さ、そして自らの血統や容姿に固執するマルフォイ家やブラック家の性質を象徴しています。
  • マルフォイ (Malfoy): 古フランス語の “mal foi” に由来し、「不誠実」や「背信」を意味します。これは、マルフォイ家の裏切りや欺瞞に満ちた性質を的確に表しています。
  • 作者J.K.ローリングは、ナルシッサが腕に「闇の印」を刻まれた正式な死喰い人ではないと明言しています。このため、彼女はヴォルデモート卿への絶対的な忠誠義務を負っておらず、家族を優先する行動が取れたとされています。(作者インタビュー)
  • 映画版では、彼女の髪はブロンドと黒のツートンカラーになっています。これは、彼女がブラック家出身(黒髪)であり、マルフォイ家に嫁いだ(ブロンド)ことを視覚的に表現したデザインです。(映画設定)
  • 女優のヘレン・マックロリーが映画でナルシッサ役を演じました。