ハリーの杖

長さ11インチ、素材はヒイラギ (Holly)、芯は不死鳥の羽根 (Phoenix feather)。この羽根は、アルバス・ダンブルドアが飼っていた不死鳥、フォークスが与えた二本の尾羽根のうちの一本である。オリバンダー氏によれば、「しなやかで気持ちよく手に馴染む」杖とされる。 映画版では、持ち手部分が樹皮のような質感で覆われた、より自然で素朴なデザインで描かれているが、これは原作にはない視覚的表現である。(映画版設定)

この杖の最も顕著な特徴は、その芯がヴォルデモート卿の杖(イチイの木、不死鳥の羽根)と同じ不死鳥、フォークスの羽根から作られていることである。これにより、二本の杖は「兄弟杖」という極めて稀な関係にある。

  • プライオア・インカンターテム (Priori Incantatem): 兄弟杖同士が戦うことを強制されると、逆転呪文として知られる魔法現象が発生する。一方の杖がもう一方の杖に、これまで使用した呪文を逆順に吐き出させる。この現象は、所有者たちの深い繋がりと対立を象徴する。
  • 所有者への忠誠心と自己防衛: この杖は、所有者であるハリーに対して並外れた忠誠心と保護能力を示した。『ハリー・ポッターと死の秘宝』において、七人のポッター作戦の最中、ハリーが意識を失っている間に杖が自らの意志でヴォルデモートに対して黄金の炎の呪文を放ち、ハリーの命を救った。これは、杖がハリーからヴォルデモートに関する知識を吸収し、彼を致命的な敵として認識したために起こった特異な現象である。
  • 修復: 一度は真っ二つに折れ、通常のレパロ (修復呪文) では修復不可能な状態となった。しかし、ニワトコの杖の比類なき力によって、完全に元の機能を取り戻すことができた。

この杖は、1991年にダイアゴン横丁にあるオリバンダーの店で、ハリー・ポッターによって購入された。正確には、数多くの杖を試した末、この杖がハリーを「選んだ」のである。その際、オリバンダーは、この杖の兄弟杖がハリーの両親を殺害し、彼に傷跡を残したことを告げ、その奇妙な運命に言及した。 ハリーのホグワーツ在学中、この杖は彼の魔法の腕と共に成長し、数々の重要な場面で活躍した。

  1. 1995年、リトル・ハングルトンの墓地でヴォルデモートと対峙した際、逆転呪文を引き起こし、ヴォルデモートが最近殺害した人々の「反響」を出現させ、ハリーの脱出を助けた。
  2. 1997年、ゴドリックの谷バチルダ・バグショットに化けたナギニに襲われた際、ハーマイオニー・グレンジャーが放った爆発呪文が跳ね返り、杖は真っ二つに折れてしまった。

杖を失ったハリーは一時的にハーマイオニーの杖を借りたり、後にマルフォイの館で奪ったドラコ・マルフォイの杖を使用したりしたが、自身の杖への愛着を失うことはなかった。ホグワーツの戦いの後、ニワトコの杖の真の所有者となったハリーは、その絶大な力を使って、修復不可能と思われていたこのヒイラギの杖を完全に修復した。

ハリーの杖は、単なる魔法の道具ではなく、彼の魔法使いとしてのアイデンティティそのものである。ヴォルデモートとの「兄弟杖」という関係は、二人の運命的な繋がりを最初期から象徴しており、物語全体の根幹をなすテーマの一つである。 杖が自らの意志でハリーを守るという出来事は、杖と持ち主の間に生まれる深い絆と、愛のような魔法の力を示唆している。最終的に、ハリーがニワトコの杖の誘惑を退け、自身の古くて壊れた杖を修復し、使い続けることを選んだ決断は、彼が権力よりも謙虚さと忠誠心を重んじる人物であることを示す、極めて重要な象徴的行為である。

  • 木材の象徴性: 原作者J.K.ローリングによると、杖の木材はケルトの樹木暦に由来することがある。ハリーの誕生月(7月)に対応するヒイラギは、保護、特に邪悪なものからの保護を象徴する木であり、ハリーの役割と完全に一致している。(Pottermore)