銀の手

銀の手は、ピーター・ペティグリューが失った右手の代わりに与えられた、魔法によって作られた義手です。原作では、「眩いばかりに輝く銀色」と描写されており、五本の指と爪を備え、本物の手と見紛うほど精巧でありながらも、明らかに金属製であるとされています。その外見は美しくも、どこか非人間的な印象を与えます。

この義手は、単なる見た目の代替品ではありません。非常に強力な魔法が付与されています。

  • 超人的な力: 銀の手は人間の力をはるかに超える握力を持ちます。物語の中では、この手で人を拘束したり、絞め殺したりする場面が描かれており、その力の強大さが示されています。
  • 自律的な行動と呪い: 銀の手の最も恐ろしい特性は、所有者であるペティグリューの意志から独立して行動する能力です。これはヴォルデモート卿が仕掛けた呪いであり、所有者がヴォルデモートに対して少しでも躊躇や裏切りの兆候を見せた場合、その所有者自身を罰するようにプログラムされています。この手は、ヴォルデモートからの「贈り物」であると同時に、ペティグリューを監視し、支配するための道具でもありました。

銀の手は、第二次魔法戦争の始まりを告げる出来事の中で生み出されました。

  • 誕生: 1995年、リトル・ハングルトンの墓地で行われたヴォルデモート卿復活の儀式において、ピーター・ペティグリューは主の復活のために自らの右手を切り落とし、捧げました。その「忠誠」への褒美として、復活を遂げたヴォルデモートが闇の魔術を用いてペティグリューにこの銀の手を創造し、与えました。
  • 最期: 1998年、マルフォイの館の地下牢に捕らえられたハリー・ポッターロン・ウィーズリーが脱出しようとした際、ペティグリューはハリーを抑えつけようとします。その時、ハリーからかつて命を救われた恩義を指摘され、ペティグリューは一瞬だけ躊躇いを見せました。その僅かな慈悲の心が、ヴォルデモートへの裏切りと見なされ、銀の手は即座にペティグリュー自身の喉に回り、彼の意志に反して彼を絞め殺しました。ハリーとロンが助けようとしましたが、その魔法の力はあまりに強く、引き剥がすことはできませんでした。

銀の手は、物語において複数の重要な役割を果たしています。

  • ヴォルデモートの支配の象徴: この道具は、ヴォルデモート卿が部下に与える「褒美」が、実際には彼らを縛り付けるための呪われた鎖であることを象徴しています。忠誠は常に監視され、少しの逸脱も許されないという彼の冷酷な支配体制を体現しています。
  • ペティグリューの末路: 銀の手は、ピーター・ペティグリューというキャラクターの因果応報の結末をもたらすための重要なプロットデバイスです。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』でハリーがペティグリューの命を助けたことにより生じた「命の借り」が、最終的にこの形で返されることになりました。ペティグリューが示したほんのわずかな良心が、彼自身の死の引き金となったのです。これは、アルバス・ダンブルドアが予見していた「恩義」が、予想外の形でハリーを救う結果となりました。
  • 映画での描写: 映画版では、銀の手は原作の「美しい」という描写よりも、より機械的で無骨なデザインとして描かれています。しかし、ペティグリューの最期において彼自身を攻撃するという中心的な役割は、原作に沿って再現されています。(映画設定)