バーテミウス・クラウチ・シニア

バーテミウス・クラウチ・シニア(Bartemius Crouch Sr.),通称 バーティ・クラウチ (Barty Crouch) は、魔法省 の高級官僚でした。彼は第一次魔法戦争 の時代に 魔法法執行部 の部長を務め、その冷酷かつ断固とした姿勢で知られていました。後に 国際魔法協力部 の部長となり、1994年の 三大魔法学校対抗試合 の開催において中心的な役割を果たしました。 クラウチは規則と評判を何よりも重んじる厳格な人物でしたが、食喰人 となった一人息子 バーテミウス・クラウチ・ジュニア を巡る家族の秘密が、彼のキャリアと生命を破滅に導くことになります。彼の物語は、ハリー・ポッターと炎のゴブレット における中心的な謎の一つであり、公的な正義と私的な情の間の葛藤がもたらす悲劇を象徴しています。

第一次魔法戦争 の最中、クラウチは 魔法法執行部 の部長として絶大な権力を持っていました。彼は ヴォルデモート卿 とその追随者に対抗するため、闇祓い たちに 許されざる呪文 の使用を許可するなど、非常に強硬な手段を取りました。彼の厳格な法執行は多くの 食喰人 を捕らえ アズカバン に送る成果を上げましたが、その過程で シリウス・ブラック のような無実の人物を裁判なしで投獄するといった過ちも犯しました。 彼のキャリアの転換点となったのは、息子である バーテミウス・クラウチ・ジュニア食喰人 として捕らえられた事件です。クラウチは自らの息子を冷徹に断罪し、アズカバン へ送りました。この出来事により、彼は魔法大臣になるという野望を絶たれ、国際魔法協力部 へと左遷されました。

クラウチの妻は息子の投獄に心を痛め、死の淵にありました。彼女の最後の願いを聞き入れ、クラウチは息子を アズカバン から脱獄させるという違法行為に手を染めます。彼は妻と息子を ポリジュース薬 を使って入れ替えさせ、妻は息子の姿で アズカバン の中で息を引き取りました。 その後、クラウチは息子を自宅に匿い、服従の呪文 をかけて完全に支配下に置きました。息子の存在は、一家に忠実な屋敷しもべ妖精の ウィンキー のみぞ知る秘密でした。彼は息子を 透明マント で隠し、何年もの間、その事実を世間から隠し通しました。

1994年、クラウチは 三大魔法学校対抗試合 の運営責任者の一人として表舞台に立ちました。しかし、クィディッチ・ワールドカップ の際に バーテミウス・クラウチ・ジュニア が一時的に父の支配から逃れ、闇の印 を打ち上げたことで、彼の計画は綻び始めます。クラウチは息子の仕業だと気づき、秘密を守るために長年仕えてきた ウィンキー を解雇しました。 この事件の後、ヴォルデモート卿 がクラウチ家の秘密を突き止め、クラウチ・シニアは逆に 服従の呪文 をかけられてしまいます。彼は ヴォルデモート卿 と息子の操り人形となり、試合の運営に関わり続けましたが、その言動には不審な点が目立つようになります。 最終的に、クラウチは呪文の支配に必死に抵抗し、一時的に正気を取り戻して ホグワーツ魔法魔術学校 へ向かいます。彼は 禁じられた森ハリー・ポッタービクトール・クラム に遭遇し、アルバス・ダンブルドア に警告しようとしますが、アラスター・ムーディ に変身していた息子によって殺害されました。彼の遺体は骨に変えられ、ルビウス・ハグリッド の小屋の庭に密かに埋められました。

クラウチ・シニアは、常に非の打ちどころがないほどきっちりとした服装をした、背の高い痩せた魔法使いとして描かれています。彼の髪は真ん中で厳格に分けられ、歯ブラシのような小さな口ひげを生やしていました。その佇まいは硬直的で、彼の厳格な性格を体現していました。しかし、物語の終盤で 禁じられた森 に現れた際には、服を裏返しに着て髪は乱れ、狂気を帯びた様子であり、彼の精神的な崩壊を物語っていました。

彼の性格は、極度の野心家 であり、規則至上主義者 です。彼は 魔法省 内での地位と社会的な評判を維持することに異常なほど執着していました。彼は目的のためなら手段を選ばず、息子を切り捨てるほどの冷酷さを見せましたが、その一方で妻の願いを聞き入れるという人間的な側面も持っていました。しかし、その行動もまた、家族の醜聞を隠蔽するという自己中心的な動機に基づいています。彼の最大の欠点は、自身の過ちを認めず、問題を力で抑えつけようとする傲慢さであり、それが最終的に彼自身の破滅を招きました。

クラウチ・シニアは非常に有能で強力な魔法使いでした。

  • 法と管理能力: 魔法省 の二つの主要な部の部長を務め上げたことから、彼の魔法法規に関する知識と管理能力は卓越していました。
  • 多言語話者: 彼は非常に知性的で、マーミッシュ(水中人の言葉)やゴブリディグック(ゴブリンの言葉)を含む多くの言語を流暢に話すことができ、国際魔法協力部 の部長としてその能力を発揮しました。
  • 服従の呪文: 彼は強力な闇の魔法使いである息子を、長年にわたり 服従の呪文 の下に置き続けることができました。これは、この呪文に対する高い熟練度と強い精神力が必要であることを示唆しています。
  • 精神抵抗力: ヴォルデモート卿 自身がかけた 服従の呪文 に対して一時的に抵抗し、正気を取り戻して ホグワーツ にたどり着いたことから、彼が並外れた意志力を持っていたことが分かります。
  • (Wand): 彼の の材質や芯に関する具体的な記述は原作にはありません。
  • バーテミウス・クラウチ・ジュニア (息子): 彼の人生で最も複雑で悲劇的な関係。公には息子を非難し勘当しましたが、裏では違法な手段で助け出しました。しかし、それは愛情からではなく、支配と隠蔽のためであり、最終的にその息子に殺害されるという皮肉な結末を迎えました。
  • クラウチ夫人 (妻): 彼は妻を深く愛しており、彼女の死に際の願いが、彼が道を踏み外す直接のきっかけとなりました。
  • ウィンキー (屋敷しもべ妖精): クラウチ家の秘密を共有する忠実な僕。クラウチは彼女の忠誠心を利用し、秘密が漏れそうになると容赦なく切り捨てました。
  • パーシー・ウィーズリー (部下): 野心的な パーシー は当初、クラウチの厳格さと仕事への献身を深く尊敬し、理想の上司として崇拝していました。
  • アルバス・ダンブルドア: 二人は同僚でしたが、ダンブルドアはクラウチが息子を裁判なしで断罪したやり方に疑問を抱いていました。
  • シリウス・ブラック: クラウチの厳格すぎる法執行の犠牲者の一人であり、彼によって裁判なしで アズカバン に送られました。
  • Bartemius: ラテン語の響きを持つ、格式張った名前です。新約聖書の登場人物「Bartimaeus」から着想を得た可能性があります。これは彼の厳格で古風な性格を反映しています。
  • Crouch: 英語で「かがむ」「身をかがめる」という意味を持つ動詞です。これは、常に背筋を伸ばし尊大に振る舞っていた彼の姿とは対照的ですが、最終的に ヴォルデモート卿 の下に屈服し、悲劇的な最期を遂げる彼の運命を暗示しているかのようです。
  • 映画版での描写: 映画 ハリー・ポッターと炎のゴブレット では、俳優のロジャー・ロイド=パック (Roger Lloyd-Pack) がクラウチ・シニアを演じました。原作とは異なり、映画では ハリー が森で彼の遺体を直接発見する場面が描かれています。(映画設定)