ダンブルドアの殺害

ダンブルドアの殺害

ダンブルドアの殺害は、第二次魔法戦争における最も重大な転換点の一つです。1997年6月、ホグワーツ魔法魔術学校天文台の塔の頂上で、校長であったアルバス・ダンブルドアセブルス・スネイプによって殺害された事件を指します。 表向きには、この事件はヴォルデモート卿の最も信頼する部下による裏切りと見なされ、魔法界に大きな衝撃と絶望をもたらしました。しかし、その真相はダンブルドア自身によって周到に計画された、自己犠牲と戦略的な一手でした。この出来事は、ニワトコの杖の所有権の移動、スネイプの死喰い人内での地位の確立、そしてハリー・ポッター分霊箱を探す旅へ独力で向かうことを決定づけるなど、物語の終盤において極めて重要な役割を果たしました。

この事件の背景には、いくつかの複雑な要因が絡み合っていました。

  • ダンブルドアの余命: ダンブルドアは、分霊箱の一つであるマールヴォロ・ゴーントの指輪を発見した際、それにかけられていた強力な呪いによって致命傷を負いました。スネイプの尽力により呪いの進行は片腕に封じ込められましたが、ダンブルドアに残された命はもはや一年程度でした。
  • ドラコの任務: ルシウス・マルフォイ神秘部の戦いで失態を演じたことへの罰として、ヴォルデモートは息子のドラコ・マルフォイに対し、ダンブルドアを殺害するという不可能に近い任務を課しました。これはドラコを失敗させて処刑するための、残酷な見せしめでした。
  • 破れぬ誓い: ドラコの母であるナルシッサ・マルフォイは、息子の命を救うため、スネイプに助けを求めました。彼女はスネイプに、ドラコを護り、もし彼が任務に失敗した場合は代わりにダンブルドアを殺害するという破れぬ誓いを立てさせました。
  • ダンブルドアとスネイプの密約: 自らの死期を悟っていたダンブルドアは、この状況を利用することを決意します。彼はスネイプに対し、いずれ自分が死ぬ運命にあることを明かし、その時が来たらドラコではなくスネイプ自身の手で自分を殺害するよう依頼しました。この計画の目的は以下の通りです。
    1. ドラコの魂が殺人によって引き裂かれるのを防ぐこと。
    2. 苦痛に満ちた屈辱的な死ではなく、迅速で威厳ある死を選ぶこと。
    3. スネイプがヴォルデモートの絶対的な信頼を得て、二重スパイとしての地位を確固たるものにすること。
    4. ニワトコの杖の力をヴォルデモートの手に渡らせず、自然に消滅させること(ただし、この点についてはダンブルドアの計算違いが生じました)。

1997年6月の夜、分霊箱を探す旅から衰弱して戻ったハリーとダンブルドアは、ホグワーツ上空に浮かぶ闇の印を目撃します。二人が天文台の塔に降り立つと、そこにドラコ・マルフォイが現れました。

  1. ドラコは弱り切っていたダンブルドアに対し、武装解除呪文を唱え、彼のを奪います。この行為により、ドラコは知らず知らずのうちにニワトコの杖の新たな所有者となりました。
  2. ダンブルドアは、塔の下で戦いが繰り広げられている間、ドラコと対話し、ヴォルデモートの支配から抜け出すよう説得を試みます。ドラコは恐怖に震え、殺害をためらいます。
  3. そこへベラトリックス・レストレンジフェンリール・グレイバック、カロー兄妹(アレクト・カローアミカス・カロー)を含む他の死喰い人たちが到着し、ドラコに早く殺すよう囃し立てます。
  4. 最後にセブルス・スネイプが塔に現れます。ダンブルドアは、ハリーや他の死喰い人には命乞いに聞こえる口調で、「セブルス……頼む……」と懇願しました。これは、かねてからの計画を実行するよう促す合図でした。
  5. スネイプはためらうことなくをダンブルドアに向け、死の呪文「アバダ・ケダブラ」を唱えました。
  6. 緑の閃光がダンブルドアの胸を打ち、彼の身体は城壁から闇の中へと落下していきました。

この一部始終を、ダンブルドアが開戦直前に「全身金縛りの呪い」で動けなくしたハリーが、透明マントの下から目撃していました。

ダンブルドアの死は、魔法界全体に計り知れない影響を及ぼしました。

  • ホグワーツの陥落: 最強の守護者を失ったホグワーツは、事実上ヴォルデモートの支配下に置かれ、スネイプが新校長に就任しました。
  • 魔法省の崩壊: ダンブルドアという抵抗の象徴を失ったことで、魔法省は急速に力を失い、数ヶ月後には死喰人によって完全に掌握されました。
  • ハリーの決意: 保護者であり師であったダンブルドアを失ったハリーは、もはや学校には戻らず、ロン・ウィーズリーハーマイオニー・グレンジャーと共に分霊箱を破壊する旅に出ることを固く決意しました。
  • スネイプの立場: スネイプはヴォルデモート卿の最も忠実な部下として絶対的な信頼を勝ち取り、不死鳥の騎士団の情報をリークしつつ、裏ではハリーを導き、ホグワーツの生徒を守るという危険な役割を続けることが可能になりました。
  • ニワトコの杖の所有権: ダンブルドアを武装解除したドラコが杖の所有者となり、その後、マルフォイの館でハリーがドラコの杖を奪ったことにより、所有権は最終的にハリーへと移りました。この事実は、ヴォルデモートとの最終決戦において決定的な意味を持ちました。

この事件の完全な真相は、物語の最終盤、『ハリー・ポッターと死の秘宝』の「プリンスの物語」の章で、スネイプが死の間際にハリーに託した憂いの篩の中の記憶を通じて初めて明かされます。ダンブルドアの「頼む」という言葉が、命乞いではなく、かねてからの約束の履行を求めるものであったことが判明し、セブルス・スネイプという人物の真の姿と、彼の悲劇的な英雄性が明らかになりました。