プリンスの物語
基本情報
説明と外見
「プリンスの物語」は、セブルス・スネイプが死の間際に自らのこめかみから杖で引き出した、銀色がかった光を放つ記憶の集合体です。その物質は 「気体でも液体でもない」 と表現され、憂いの篩 (Pensieve) に移して再生するために使用されます。ハリー・ポッターは、ハーマイオニー・グレンジャーが魔法で出現させたフラスコ瓶にこの記憶を回収しました。 これは特定の魔法道具ではなく、一個人が最も重要と考える記憶を物理的な形で抽出し、他者へ託すための魔法的な媒体そのものを指します。
魔法的な特性と用途
この記憶の主な用途は、所有者であるセブルス・スネイプの視点から、彼の生涯における一連の重要な出来事を第三者(ハリー・ポッター)に追体験させることです。憂いの篩と共に使用することで、記憶は客観的な三人称視点の映像として再生され、当事者の感情や思考のニュアンスまで忠実に伝えます。 「プリンスの物語」は、アルバス・ダンブルドア亡き後、スネイプがヴォルデモート卿を倒すための最後の決定的な情報をハリーに伝える唯一の手段として用いられました。口頭での説明に伴う誤解や時間的制約を排除し、疑いようのない真実を伝えるための、最も確実な方法でした。
物語の内容
ハリー・ポッターが憂いの篩で見た記憶は、ほぼ年代順に再生され、スネイプの人生の謎を解き明かしました。
- 死喰い人への加入と転向: 死喰い人 (Death Eater) となったスネイプが、シビル・トレローニーの予言の一部を盗み聞きし、ヴォルデモート卿に報告します。しかし、その予言がリリーの息子を指していると知った彼は恐怖に駆られ、アルバス・ダンブルドアに助けを求め、リリーの安全と引き換えに不死鳥の騎士団側の二重スパイになることを誓います。
- ハリーの保護者として: スネイプがハリーのホグワーツ在学中、影ながら彼を守り続けていた数々の場面。一年生のクィディッチの試合でクィリナス・クィレルの呪いを妨害しようとしたことや、ダンブルドアとハリーの身の安全について激しく議論する様子が描かれます。
- ダンブルドアの死の真相: スネイプがナルシッサ・マルフォイと「破れぬ誓い (Unbreakable Vow)」を交わしたこと、そしてダンブルドアの死が、呪われたマールヴォロ・ゴーントの指輪によって余命いくばくもなかったダンブルドア自身とスネイプの間で計画されたものであったという衝撃の事実が明かされます。
- 最後の任務: ホグワーツの校長となったスネイプが、フィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画を通じてハリーたちの動向を追い、自らの雌鹿の守護霊を使ってグリフィンドールの剣をハリーのもとへ導いたことが判明します。
- 最終的な啓示: ダンブルドアの肖像画との最後の会話で、ハリー自身がヴォルデモートの意図せぬ分霊箱 (Horcrux) であり、最終的に死ななければならない運命にあることを知らされ、スネイプは激しく動揺します。ダンブルドアが「あれほどの時が過ぎてもか?(After all this time?)」と問うと、スネイプは「常に (Always)」と答えます。
物語における役割
「プリンスの物語」は、ハリー・ポッターシリーズ全体における最大の伏線の一つを回収する、極めて重要なプロットデバイスです。
- 物語のクライマックスへの導き: ハリーがヴォルデモート卿を倒すために自らが死ななければならないという、最後の、そして最も過酷な真実を伝える役割を果たしました。この情報がなければ、ハリーは最終決戦に勝利することはできませんでした。
- ハリーの成長: スネイプの真実を知ったことは、ハリーに許しと理解の境地をもたらしました。彼はスネイプを「自分が知る中で最も勇敢な男の一人」と評し、自身の次男にアルバス・セブルス・ポッターと名付けることで、彼への敬意を示しました。
舞台裏情報
- J.K. ローリングはインタビューで、セブルス・スネイプのキャラクターアークと彼の忠誠心の真相は、シリーズの非常に早い段階から計画されていたと述べています。特に「Always」という一言は、彼のキャラクターを象徴する重要なキーワードとして最初から構想にあったと語られています。(作者インタビュー)