トム・リドルの日記

トム・リドルの日記は、ロンドンのヴォクソール・ロードにあるマグルの文房具店で購入された、何の変哲もない小さな黒い革張りの手帳です。表紙は古びており、裏表紙には「1943」という年号が金文字で記されています。中は白紙のページで満たされていますが、インクで何かを書き込むと、そのインクはページに吸い込まれて消え、日記に宿る記憶からの返事が現れるという魔法の特性を持っています。

この日記の最も重要かつ邪悪な特性は、それがヴォルデモート卿の最初の魂器 (ホークラックス) であるという点です。

  • 魂の器: 16歳のトム・マールヴォロ・リドルは、秘密の部屋に棲むバジリスクを操り、同級生のマートル・ウォーレン(後の 嘆きのマートル)を殺害しました。この殺人によって自らの魂を引き裂き、その一片をこの日記に封じ込めたのです。
  • コミュニケーションと操作: 日記に書き込んだ者に対し、16歳のトム・リドルの記憶が擬人化された存在として返事を書きます。この対話を通じて、書き手の信頼を得て同情心を引き出し、徐々に精神を支配していきます。
  • 憑依と生命力の吸収: 日記は、書き手(作中ではジニー・ウィーズリー)から感情と生命力を吸収し、その力を糧にして日記に宿る魂の記憶を強化します。最終的な目的は、宿主の生命力を完全に奪い尽くし、トム・リドルの記憶が物理的な実体として復活することでした。
  • 記憶の共有: 日記は所有者に対し、トム・リドルが望む過去の記憶を見せることができます。ハリー・ポッターはこれによって、リドルが秘密の部屋を開いた犯人としてルビウス・ハグリッドを陥れた偽りの記憶を見せられました。
  1. 1943年: ホグワーツ魔法魔術学校の6年生だったトム・リドルが、嘆きのマートルの死を利用して最初にして唯一の学生時代の魂器としてこの日記を製作しました。
  2. 保管: 後にヴォルデモート卿となったリドルは、自身の最初の失踪前に、この日記を忠実な死喰い人であるルシウス・マルフォイに預けました。ヴォルデモートはこれを秘密の部屋を再び開くための巧妙な武器であると説明しましたが、魂器であるという本質は明かしませんでした。
  3. 1992年: 魔法省による闇の魔術のアイテムの家宅捜索を恐れたルシウス・マルフォイは、日記を厄介払いすると同時に政敵であるアーサー・ウィーズリーを貶めるため、ダイアゴン横丁フローリシュ・アンド・ブロッツ書店で、ジニー・ウィーズリーの古い変身術の教科書にこっそりと忍び込ませました。
  4. ジニーの憑依: 日記を手に入れたジニーは、自身の不安や秘密を書き綴り始め、すぐにリドルの記憶の虜となりました。日記に操られた彼女は秘密の部屋を再び開き、バジリスクを解き放ち、ホグワーツ城内に脅迫メッセージを残すなどの事件を引き起こしました。
  5. 破壊: 日記の邪悪な性質に気づいたジニーはそれをトイレに捨てようとしましたが、ハリー・ポッターが発見します。最終的にハリーは秘密の部屋でリドルの記憶と対峙し、フォーカスの助けを得てグリフィンドールの剣バジリスクを倒した後、その抜け落ちた牙で日記を突き刺しました。バジリスクの毒魂器を破壊できる数少ない物質の一つであり、日記に宿っていたヴォルデモートの魂の欠片は完全に破壊されました。

トム・リドルの日記は、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』における中心的なプロット装置です。これはハリー・ポッターが初めて遭遇し、破壊した魂器であり、この時点では彼もアルバス・ダンブルドアもその正体を完全には理解していませんでした。この出来事を通じて、ハリーと読者はヴォルデモート卿の過去と秘密の部屋にまつわる真実を知ることになります。また、日記を破壊したバジリスクの毒魂器を破壊する有効な手段であることが判明し、後の魂器探しの旅において極めて重要な情報となりました。

  • J.K.ローリングは、自分の秘密を書き込んだ日記が、その秘密を利用して書き返してくるというアイデアを「非常に恐ろしい」ものだと考えていたと語っています。(作者コメント)
  • 映画版『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では、ハリーが日記を一度だけ力強く突き刺して破壊する様子が描かれていますが、原作では複数回突き刺しています。(映画設定)