湯姆・マールヴォロ・リドル

トム・マールヴォロ・リドル (Tom Marvolo Riddle) は、後に卿ヴォルデモート (Lord Voldemort) として知られるようになる、魔法界史上最も強力かつ危険な闇の魔法使いです。彼はサラザール・スリザリンの正統な継承者であり、物語全体における主要な敵対者です。死を異常に恐れ、不死を追求するために自らの魂を7つに引き裂き、複数の分霊箱 (Horcrux) を作成しました。彼の運命は、ある予言によってハリー・ポッターの運命と分かちがたく結びついています。

トム・マールヴォロ・リドルは1926年12月31日、魔女のメローピー・ゴーントとマグルのトム・リドル・シニアの間に生まれました。母メローピーは惚れ薬を使ってリドル・シニアを篭絡しましたが、薬の使用をやめた途端、彼は妊娠中の彼女を捨てました。メローピーはロンドンのマグル向け孤児院でトムを出産した直後に死亡し、息子に父と祖父の名前(トムとマールヴォロ)を残しました。 リドルは孤児院で育ち、自身の魔法の力に早くから気づいていました。彼は蛇語 (Parseltongue) を話し、念動力で物を動かし、他の孤児を精神的・肉体的に傷つけるなど、その力を残酷な目的のために利用していました。11歳の時、アルバス・ダンブルドアが彼を訪ね、ホグワーツ魔法魔術学校への入学を勧めました。ダンブルドアはこの最初の出会いから、リドルの危険な性質を見抜いていました。

ホグワーツに入学したリドルは、組分け帽子によってスリザリン寮に選ばれました。彼は容姿端麗でカリスマ性があり、極めて優秀な生徒として知られ、監督生、そして首席にまで上り詰めました。しかしその裏では、自らの出自を熱心に調査し、自分がサラザール・スリザリンの継承者であることを突き止めます。 5年生の時(1943年)、彼は秘密の部屋を開き、中に潜むバジリスクを操ってマグル生まれの生徒を襲撃させ、嘆きのマートルを死に至らしめました。そして、この犯罪の濡れ衣をルビウス・ハグリッドに着せ、退学に追い込みました。彼はマートルの死を利用して最初の分霊箱であるトム・リドルの日記を作成しました。また、在学中に死喰い人 (Death Eaters) の前身となる集団を組織し、ホラス・スラグホーン教授から分霊箱に関する知識をさらに引き出しました。

ホグワーツ卒業後、リドルはボージン・アンド・バークスで短期間働いた後、姿を消しました。彼は10年間にわたり世界中を旅し、闇の魔術の深淵を探求し、さらに複数の分霊箱を作成しました。その過程でヘプジバ・スミスを殺害し、ヘルガ・ハッフルパフのカップサラザール・スリザリンのロケットを盗みました。この時期に彼の肉体は変質し始め、人間離れした容貌へと変わっていきました。 英国に戻ると、彼は自らを「卿ヴォルデモート」と名乗り、死喰い人を率いて魔法界に恐怖による支配を敷きました。これが第一次魔法戦争の始まりです。彼は「闇の魔術に対する防衛術」の教授職を求めてホグワーツを訪れましたが、ダンブルドアに拒否されたため、その職に呪いをかけました。 1980年、ヴォルデモートは自身を打ち破る力を持つ者が7月末に生まれるという予言をセブルス・スネイプから聞きつけ、その対象をポッター家の子、ハリーであると判断しました。1981年10月31日、彼はゴドリックの谷ジェームズ・ポッターリリー・ポッターを殺害しましたが、リリーの自己犠牲の愛の守りによって、赤子のハリーに放った死の呪い (Avada Kedavra) が跳ね返されました。その結果、ヴォルデモートは肉体を失い、かろうじて意識を保つだけの霊体となり、第一次魔法戦争は終結しました。

肉体を失ったヴォルデモートは、アルバニアの森に逃げ込み、動物に憑依して生き延びました。1991年、彼はクィリナス・クィレル教授に憑依し、賢者の石を盗んで肉体を取り戻そうとしましたが、ハリー・ポッターによって阻止されました。翌年、彼が学生時代に作成した分霊箱である日記がジニー・ウィーズリーを操り、再び秘密の部屋を開きましたが、ハリーによって日記は破壊されました。 その後、ピーター・ペティグリューの助けを借りて、ヴォルデモートは不完全ながらも仮の肉体を手に入れます。そして1995年、三大魔法学校対抗試合の最終局面で、リトル・ハングルトンの墓地にて「父の骨、僕の血、下僕の肉」を用いた古代の闇の魔術の儀式を行い、ついに完全な肉体を取り戻して復活を遂げました。

復活当初、魔法省はヴォルデモートの帰還を認めようとしませんでした。ヴォルデモートはこの機を利用して水面下で勢力を拡大し、省の内部から崩壊させようと画策します。神秘部での戦いを経て彼の復活が公になると、第二次魔法戦争が本格化しました。 彼はダンブルドアの殺害を計画し、セブルス・スネイプに実行させました。その後、魔法省を乗っ取り、傀儡の大臣を立てて魔法界を支配下に置きます。同時に、彼は死の秘宝の一つであるニワトコの杖の行方を追い、ダンブルドアの墓からそれを手に入れました。 しかし、ハリー、ロン・ウィーズリーハーマイオニー・グレンジャーによって、彼の分霊箱は次々と発見され、破壊されていきました。最終決戦は1998年5月2日のホグワーツの戦いで繰り広げられました。ヴォルデモートは、ニワトコの杖の真の所有者はスネイプだと信じ込み、ナギニに彼を殺害させました。しかし、杖の真の所有権は、ダンブルドアを武装解除したドラコ・マルフォイを経て、そのマルフォイを武装解除したハリーに移っていました。 ヴォルデモートがハリーに向けて放った最後の死の呪いは、真の所有者を傷つけることを拒んだニワトコの杖によって再び跳ね返されました。自身の呪いによってヴォルデモートは死亡し、その引き裂かれた魂は永遠に滅びました。

  • 青年期: 長身で、黒い髪と暗い瞳を持つ、非常にハンサムな青年でした。その魅力的な外見を利用して多くの人々を操りました。
  • 復活後: 闇の魔術への傾倒と分霊箱の作成により、彼の容姿は人間離れしたものへと変貌しました。チョークのように真っ白な肌、蛇のように縦に裂けた瞳孔を持つ赤い目、鼻は蛇のように平らで切れ込みがあるだけでした。骸骨のように痩せこけた体躯と、異常に長い蜘蛛のような指が特徴でした。

ヴォルデモートの性格は、極度の自己愛と権力欲によって支配されています。彼はサディスティックで、他者の苦痛を何とも思わない冷酷さを持ち合わせていました。純血主義を掲げながらも、自身が半純血であることに深いコンプレックスを抱いていました。 彼の最大の恐怖はであり、不死を追求するためならどんな残虐な手段も厭いませんでした。愛や友情といった感情を理解できず、それらを弱さと見なしていました。その知性は極めて高い一方で、自身の能力を過信する傲慢さが最大の弱点となり、最終的に自らの破滅を招きました。

ヴォルデモートは、アルバス・ダンブルドアと並び、史上最も偉大な魔法使いの一人と見なされています。

  • 闇の魔術: 比類なき熟練者であり、数多くの闇の呪文を創り出しました。
  • 分霊箱 (Horcrux): 魂を分割し、複数の分霊箱を作成することに成功した唯一の魔法使いとして知られています。
  • 蛇語 (Parseltongue): 蛇と会話する能力。サラザール・スリザリンから受け継ぎました。
  • 決闘: 卓越した決闘者であり、ほとんどの魔法使いを圧倒する実力を持っていました。
  • 開心術と閉心術 (Legilimency & Occlumency): 非常に強力な開心術士 (Legilimens) であり、他者の心を読み、偽のビジョンを見せることができました。
  • 無言呪文と杖なし魔法: 高度な呪文を詠唱なし、あるいは杖なしで使うことができました。
  • 飛行: 箒やその他の補助なしで飛行できる、数少ない魔法使いの一人でした。
  • 魔杖: 長さ13.5インチ、イチイの木、不死鳥の羽根の芯。芯の羽根は、ハリー・ポッターの杖と同じ不死鳥フォークスから取られたものでした。
  • ハリー・ポッター (Harry Potter): 最大の宿敵。予言によって運命が結びつけられています。ヴォルデモートは意図せずハリーを7番目の分霊箱にしてしまいました。
  • アルバス・ダンブルドア (Albus Dumbledore): ヴォルデモートが唯一恐れた魔法使い。彼の計画を常に見抜き、対抗し続けました。
  • セブルス・スネイプ (Severus Snape): 最も信頼していた死喰い人の一人でしたが、実際はリリー・ポッターへの愛のためにダンブルドア側で活動する二重スパイでした。
  • 死喰い人 (Death Eaters): 彼の信奉者たち。彼は忠誠心ではなく恐怖によって彼らを支配しました。主な部下にベラトリックス・レストレンジルシウス・マルフォイなどがいます。
  • ゴーント家 (The Gaunts): 彼の母方の血筋。彼はその血統を誇りに思いながらも、母親メローピーの弱さや、祖父マールヴォロと叔父モーフィンの貧しさを軽蔑していました。
  • リドル家 (The Riddles): 彼のマグルの父親とその両親。彼は自身のマグルの血を消し去るため、16歳の時に彼らを殺害しました。

彼の本名である “Tom Marvolo Riddle” は、アナグラムによって “I am Lord Voldemort(我は卿ヴォルデモートなり)” という文章を形成します。彼は平凡なマグルの名である「トム」を嫌い、この新しい名前を自ら作り上げました。 “Voldemort” という名前は、フランス語の vol de mort に由来すると考えられています。これは「死の飛翔」または「死からの逃亡」を意味し、彼の死への恐怖と不死への執着を完璧に象徴しています。

  • 発音: J.K. ローリングは、“Voldemort” の最後の “t” は発音しないのが正しいと述べています(作者インタビュー)。しかし、映画版では発音されています。
  • まね妖怪ボガート (Boggart): ダンブルドアは、ヴォルデモートのボガートは彼自身の死体だろうと推測しました。これは彼の死への根源的な恐怖を表しています(書籍)。
  • 惚れ薬による懐妊: ヴォルデモートが惚れ薬の影響下で生まれたことは、彼が愛を理解できないことの象徴であると作者は示唆しています(作者インタビュー)。
  • 映画版での描写: 映画版では、復活後のヴォルデモートを俳優のレイフ・ファインズが演じています。最期のシーンでは、原作のようにただの死体として倒れるのではなく、体が灰のように崩れ落ちて消滅するという描写に変更されています(映画版)。