ヴォルデモー卿 (Lord Voldemort)、本名 トム・マールヴォロ・リドル (Tom Marvolo Riddle) は、《ハリー・ポッター》シリーズにおける主要な敵役である。彼は史上最も危険とされた闇の魔法使いであり、純血の優越性を信奉し、魔法界の支配と死の克服(不死)を企んだ。彼の信奉者たちはデスイーター (死喰い人) として知られている。ヴォルデモー卿はハリー・ポッターの宿敵であり、物語全体を通じて魔法界に恐怖と混乱をもたらす中心的な存在である。
トム・マールヴォロ・リドルは、魔女のメローピー・ゴーントとマグルのトム・リドル・シニアの間に生まれた。母親のメローピーは、サラザール・スリザリンの末裔であったが、トム・リドル・シニアを愛の妙薬で虜にして結婚した。しかし、彼女が薬の使用をやめると、夫は彼女と身ごもっていた子供を捨てて去った。メローピーはロンドンのマグルの孤児院でトムを出産した直後に死亡した。 孤児院で育ったトムは、幼い頃から自身の魔法の才能に気づいており、その力を他の孤児を支配し、苦しめるために利用していた。11歳の時、アルバス・ダンブルドアが彼のもとを訪れ、ホグワーツ魔法魔術学校への入学を案内した。
ホグワーツに入学したトムは、組分け帽子によって即座にスリザリン寮に組分けされた。彼は模範的な生徒として振る舞い、監督生、そして首席にまで選ばれたが、その裏では闇の魔術、特に自身の血筋と不死の方法について深く探求していた。彼は自分が「スリザリンの継承者」であることを突き止め、5年生の時に秘密の部屋を開き、バジリスクを解き放った。この事件により、生徒の一人(後の嘆きのマートル)が死亡した。トムはルビウス・ハグリッドに罪を着せ、自身への疑いを逸らした。 また、在学中にホラス・スラグホーン教授から分霊箱 (Horcrux) についての情報を引き出し、魂を分割して不死を得るという禁断の魔法に傾倒していく。彼は最初の分霊箱として自身の日記を作成した。
ホグワーツ卒業後、トムはボージン・アンド・バークスで働きながら、さらなる分霊箱の作成に必要な魔法の遺物を探し求めた。彼は自身の先祖であるゴーント家の指輪や、ヘルガ・ハッフルパフのカップ、サラザール・スリザリンのロケットなどを盗み出し、殺人を犯してそれらを分霊箱に変えた。 彼は「ヴォルデモー卿」という新しい名前を名乗り始め、純血主義を掲げて信奉者であるデスイーターを集め、第一次魔法戦争を引き起こした。彼の支配は魔法界全体に恐怖を広げたが、自身を倒す可能性を持つ子供の存在を予言で知り、ポッター家を標的とする。
1981年10月31日、ヴォルデモー卿はゴドリックの谷でジェームズ・ポッターとリリー・ポッターを殺害した。しかし、息子ハリーに死の呪いをかけた際、リリーが息子を守るためにかけた古代の愛の魔法によって呪いが跳ね返り、ヴォルデモー卿は肉体を失い、霊体のような存在となった。 その後、彼はアルバニアの森に潜伏し、生き延びるために蛇などの動物に取り憑いていた。10年後、クィリナス・クィレル教授の肉体に取り憑き、賢者の石を狙うがハリーに阻止される。数年後、ピーター・ペティグリュー (ワームテール) の助けを借りて一時的な肉体を取り戻し、1995年にリトル・ハングルトンの墓地で、ハリーの血を使って完全な肉体を取り戻し復活を遂げた。
復活後、ヴォルデモー卿はデスイーターを再招集し、第二次魔法戦争を開始した。当初、魔法省は彼の復活を認めなかったが、神秘部の戦いで公の場に姿を現したことで、その存在が公式に認められた。彼は魔法省を内部から掌握し、ホグワーツをも支配下に置いた。 ヴォルデモー卿は無敵の杖であるニワトコの杖を手に入れるが、ハリーたちが自身の分霊箱を破壊していることを知り、最終決戦の地としてホグワーツを選ぶ。ホグワーツの戦いにおいて、彼は最後の分霊箱が破壊された後、ハリー・ポッターと対峙する。しかし、ニワトコの杖の真の所有者はハリーであったため、ヴォルデモー卿が放った死の呪いは再び跳ね返り、彼は自らの呪いによって完全に滅びた。
青年時代のトム・リドルは、黒髪で色白の、非常に整った顔立ちの少年だった。しかし、闇の魔術と分霊箱の作成を重ねるにつれて、その人間性は失われ、外見も著しく変化した。復活後の姿は、蛇のように蝋のような質感の真っ白な肌、骸骨のような顔、猫のように縦に裂けた瞳孔を持つ赤い目、そして蛇のように平らになった鼻が特徴である。 彼の性格は、極めて自己愛的かつサディスティックで、他者への共感や愛情を一切理解できない。唯一の恐怖は「死」であり、不死を追求することが彼の最大の動機であった。彼は支配欲が非常に強く、信奉者たちでさえも恐怖によって支配し、道具としてしか見ていなかった。
ヴォルデモー卿は、アルバス・ダンブルドアと並び、史上最も強力な魔法使いの一人とされる。